中小企業をイメージする(2017年):2017年度における大学生を対象とした調査から

中小企業をイメージする(2017年):2017年度における大学生を対象とした調査から

関 智宏(同志社大学)

Ⅰ はじめに

本研究は、中小企業のイメージをめぐる、筆者のこれまでの一連の調査ならびにデータ分析の延長上に位置する(関, 2017: 2018: 2019: 2020)、2017年度のデータに基づくものである。

中小企業とは何かという問題をめぐる議論は、中小企業研究のなかでは本質論とも言われる(瀧澤, 1995; 山中, 1948)。中小企業は「異質多元的」ゆえに(山中, 1948)、多様なかたちで存在している。このこともあり、中小企業には多様なイメージがつきまとう。中小企業がいかなるイメージをもたれているかについては、これまでいくつかの研究で取り組まれてきた(中小企業白書, 1972: 1992; 後藤, 2015; 松井, 2014; 寺岡, 2005)。しかしながら、そのイメージは、これまで必ずしも厳密に分析されてきたとは言えない(関, 2017)。

本研究では、筆者のこれまでの検討を踏まえ(関, 2017: 2018: 2019)、中小企業についてこれから学ぼうとする社会科学系学部に属する大学生を対象に、筆者が新規に独自に調査することで獲得したデータに基づき、大学生が中小企業に対して、どのようなイメージを抱いているのかを引き続き明らかにしていく。

大学生は、日本国民全体からすれば、その数はわずかに過ぎない。したがって、大学生が抱く中小企業のイメージだけをもってして、日本国民が抱く中小企業のイメージを示すことにはならない。また、大学生はたしかに企業における近い将来の有力な人材であることに違いないが、社会に巣立つ前ということもあり、社会人と異なり、大学生がどの程度中小企業の存立実態(それ以前に企業の実際)を正しく認識しているのかについては疑問が残る。大学生を対象とした中小企業に対するイメージをとりあげるさいには、これらのような懸念がある。

しかしながら、大学生は中小企業の存立実態を正しく認識していないにもかかわらず、中小企業に対して何らかのイメージを有している。ここで、大学生がイメージを有しているということそれ自体が重要なのである。この大学生が抱くイメージにかかるデータおよびその分析が、中小企業研究上の資料的価値をもつと考える。

本研究の構成は以下のとおりである。第Ⅱ節では、筆者が独自に実施した調査について説明する。第Ⅲ節では、KH Coderを使った分析方法について説明し、第Ⅳ節では、その分析と結果を示す。第Ⅴ節は、これまでの分析結果から導出される、今後検討していくべき諸点を示す。第Ⅵ節は、小結である。

Ⅱ 調査概要

筆者は、2017年度に、筆者が中小企業論の関連科目を担当する、京阪神地域に立地するA~E大学の5つの大学において、その科目を履修する大学生を対象に、中小企業のイメージにかかる調査を実施した。科目の設置時期の関係から、調査は大別して前期と後期とに別々に調査された。調査は、具体的には、「中小企業と聞いて思いつくイメージ」を5つ以上あげ、指定の用紙に箇条書きで記述するよう依頼するかたちで実施された。5つの大学から得られた有効回答は1,232であった(A大学:37、B大学:146、C大学:682(うち4月回収が275、9月回収が407)、D大学:118、E大学:249)。

Ⅲ 分析方法

本研究では、分析ツールとしてKH Coderを使い、回答データの分析を行った。これまでの中小企業のイメージにかんする研究は、ただ回答として得たイメージを列挙しているにとどまっている(関, 2017)。本研究のように、データ処理のソフトを使った分析は、筆者の知る限りにおいてこれまでなされていない(関, 2017: 2018: 2019)。それゆえ、本研究でもちいるデータの分析によっては、回答データ間の関連なども含めたさまざまな分析が可能となる。これが先行研究とは根本的に異なる(関, 2017)、極めて先駆的な取組である。

KH Coderは、分割されうる語を1つ1つ抽出するために、明らかにそれらの複数の用語が関連づけされ、1つの複合語である場合でも抽出語一覧に反映されない場合がある。それゆえこれまでに筆者が行ってきたように(関, 2018: 2019: 2020)、複合語の抽出を踏まえた分析を行った。

頻出度数が多いものから150語をまとめたものが、下の表である。出現回数が200以上のおもだったものをみると、「少ない」がもっとも多く出現回数は975、「大企業」が805、「多い」が688、「従業員」が439、「企業」が354、「下請」が339、「小さい」が316、「会社」が281、「給料」が260、「規模」が241、「低い」が233、「数」が200、と続いた。

表 抽出語一覧(150語)

Ⅳ 分析および分析結果

以上の抽出されたデータを基本として、共起ネットワーク分析を行った。

まず、共起ネットワーク分析を行うにあたり、語の最小出現数を25に設定した。また描画するにあたって、強い共起関係ほど濃い線で、また最小スパンニング・ツリーだけ、さらに出現数の多い語ほど大きい縁に、描画する共起関係を上位60にした。その結果を図示したものが下の図である。

ここで、大学生による中小企業の13のイメージが浮かび上がった。

1つは、大企業と比べたとき、ないし対比したときのイメージである。具体的には、大企業と比べて、数が多い、規模が小さい、従業員が少ない、給料が安い/低い、大企業の下請、である。

2つは、日本経済を支えているイメージである。

3つは、銀行の融資を受けているイメージである。

4つは、仲が良いイメージである。

5つは、縁の下の力持ちのイメージである。

6つは、ある分野に特化しているイメージである。

7つは、独自の技術を持っているイメージである。

8つは、社長との距離が近いイメージである。

9つは、B to B(企業間取引)のイメージである。

10つは、部品を作っているイメージである。

11つは、若いうちに責任を任されるイメージである。

12つは、名前が知られていないイメージである。

13つは、地域に密着したり、根づいたりしているイメージである。

Ⅴ ディスカッション

ここでは、分析結果から導出される、今後考察していくべき諸点について指摘したい。

第1に、大企業との対比でイメージされる諸点の1つとしての企業としての数の多さと知名度が低いという点である。この知名度は、記述をみるなり社名のことであるが、数が多いだけに、個々の企業の知名度が低いということをどのように考えればよいであろうか?

第2に、日本の経済を支えている、また地域に密着ないし根づいているという点である。という点である。中小企業が存在しなければ、日本の経済、あるいは企業が存在しているその地域は持続できないとも推察されるが、大学生はどのような根拠からこのようなイメージをもつのであろうか?またそもそもなぜ大学生がこのようなイメージをもつのであろうか?

第3に、社内での社長ないし社員との関係性の点である。中小企業組織における構成員同士の「距離が近い」や「仲が良い」というのは、本当にそうなのであろうか?

第4に、低賃金で収入が不安定でかつ倒産する可能性が高いという点である。これらは本当にそうなのであろうかか?また、なぜ大学生は中小企業であるということでこのようなイメージをもつのであろうか?

第5に、技術、ものづくり、部品を作っている、大企業の下請、B to Bという点である。これらの諸点は事実であるが、なぜ中小企業であるということで大学生が製造業でかつしかも機械金属業種のイメージをもつのであろうか?なぜそれ以外の業種(たとえば対消費者向けのサービス業など)のイメージを強くもたないのであろうか?

第6に、銀行の融資を受けているという点である。なぜ大学生が、中小企業の資金調達手段が銀行からの融資であるというイメージをもつのであろうか?

第7に、若いうちから仕事を任されて責任を担い、自分の成長につながるという点である。成長志向であることは望ましいが、中小企業であることがそれを実現することにつながると言えるのであろうか?

これらのような疑問について、今後個別に検討していく必要があると考える。

Ⅵ 小結

これまでにも主張してきているように、大学生は中小企業がいかなるかたちで存在しているか、その存立実態を正しく認識していない。それにもかかわらず、大学生は中小企業に対して上の諸点で示されたようなイメージを有している。そもそも大学生がなぜ上のようなイメージをもつのかということも明らかにしなければならないであろう。そして、中小企業が大学生のイメージどおりに存立しているか、また上で示される中小企業のイメージが、多様なかたちで存立する中小企業層のどの部分を示しているかなど、その実態については綿密な調査などが必要であろう。

大学生が抱く中小企業のイメージが、追加的な実態調査の結果として明らかとなる中小企業の存立実態と乖離があるとすれば、それは何らかの方法によって是正されていかなければならないと考える。これらの大学生の中小企業のイメージと中小企業の実態とがいかに乖離しているか、また乖離しているとすれば、それはどのように是正していくかについては、本研究で示された諸課題と合わせて、あらためて別に検討していく必要がある。

参考文献(アルファベット順)

中小企業庁(1972)『中小企業白書』大蔵省印刷局

中小企業庁(1992)『中小企業白書』大蔵省印刷局

後藤康雄(2014)『中小企業のマクロ・パフォーマンス―日本経済の寄与度を解明する―』日本経済新聞出版社

後藤康雄(2015)「日本経済における中小企業のプレゼンスと政策のあり方」独立行政法人経済産業研究所(RIETI)BBLセミナープレゼンテーション資料(2015年1月23日)(http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/15012301_goto.pdf)(2020年6月30日閲覧)

松田修一(2001)『ベンチャー企業(2版)』日経文庫

松井敏邇(2004)『中小企業論』晃洋書房

関智宏(2017)「中小企業をイメージする―2013年度における大学生を対象とした調査から―」同志社大学商学会『同志社商学』第69巻第1号, pp.85-148

関智宏(2018)「中小企業をイメージする(2014年)―2014年度における大学生を対象とした調査から―」同志社大学商学会『同志社商学』第69巻第4号, pp.61-88

関智宏(2019)「中小企業をイメージする(2015年)―2015年度における大学生を対象とした調査から―」同志社大学商学会『同志社商学』第71巻第2号, pp.117-146

関智宏(2020)「中小企業をイメージする(2016年)―2016年度における大学生を対象とした調査から―」同志社大学商学会『同志社商学』第71巻第4号, pp.163-226

寺岡寛(2005)『中小企業の政策学―豊かな中小企業像を求めて―』信山社

山中篤太郎(1948)『中小工業の本質と展開―国民経済構造矛盾の一研究―』有斐閣

本研究は、関智宏(2020)「中小企業をイメージする(2017年)―2017年度における大学生を対象とした調査から―」同志社大学商学会『同志社商学』(投稿中)の抄訳(Web用)である。